星になれたら~君と僕の物語~ ③
どこかで呼んでる声がする気がして、振り向いてみる。
そこには、見慣れたバイト帰りの風景が広がっているだけだった。
4月初めの早朝。
君から教員採用試験合格の知らせを受けてから、半年がたった。
きっと君だったら、子どもたちに慕われる、いい先生になるんだろうなと思う。
それに比べて、僕はどうだ。
毎日出させてもらっている事務所のライブでは、お客さんのアンケート評価が思うように上がっていかない。
客のせいにするのは簡単だったけど、自分の実力が圧倒的に足りないことは分かっていた。
何度もオーディションを受けて、やっと出演できた深夜のネタ番組。
でも、スタッフにはまらなかったのだろう。2度目の出演は叶わなかった。
一念奮起して始めた、ネタ配信のYouTubeチャンネル。
何か月もかかってようやく収益化の基準は達成できたものの、収益は月数千円程度。そんなもの、衣装代やオーディションへ行くための交通費で消えてしまう。
初めてライブの舞台に立った時には、自分たちが誰よりも面白い漫才ができるという、根拠のない自信があった。
でも、その自信は1年も経たずに崩れ去った。
自分には、才能がないのかもしれない・・・
いつしか、そんな弱気がつい口からこぼれてしまうことが増えた。
だけど帰りたくない。
地元で僕をあざ笑った奴ら。
それでも、僕を応援してくれた君。
そんな君に、顔向けできるはずがない。
だから僕は、バイトを掛け持ちして生計を立てながら、週3回のお笑いライブの舞台に立ち続けた。
バイトの仲間は、僕がお笑い芸人をしているのを知っている。
みんな口々に言う。
「お前が売れるわけがないだろ」
「もう辞めちまえよ。」
「諦めちゃった方がラクだぞ」
中には、いつまでも夢を追いかけ続ける僕を心配して、善意で忠告してくれている人もいることは分かっていた。
でも多くは、地元の奴らと同じ。人生足踏みしている僕を見て、あざ笑っていたのだった。
でも、笑われるのにも慣れた。
周りが何を言っているのかは関係ない。
僕は、僕の道を行く。
ただそれだけのことだ。
幸い、相方も同じ気持ちでいてくれていた。
こんな僕が書くネタを、一生懸命覚えてくれた。
「オレは面白いと思う」「きっといつか、世間にも伝わるさ」と、励まし続けてくれた。
そしてある日、翌日のライブに向けてネタ合わせをしようと集まった僕の家で、こんなことを言ってくれた。
「長く助走をとった方が、より遠くに飛べるって聞いたよ。その時が来るまで、全速力で駆け抜けていこうよ。」
その言葉を聞いて、僕の頬がふわっと緩んだ。
「そうだな。ブレイクの糸口を掴むまで、死ぬ気でやっていこうか。そのうちきっと 大きな声で 笑える日が来るはずだよな。」
すると、相方の表情も明るくなった。
「そうだよ。分かってんじゃねえかよ!」
そう言って、僕の肩をバンッと叩いてきた。
「おっ、おう・・・。それでさ、早速新ネタ持ってきたんだけど・・・」
その夜、僕らのネタ合わせは明け方まで続いた。