星になれたら~君と僕の物語~ ➄
夏休みになった。
初任者にとっての学校現場は、とにかく過酷で、毎日をやり過ごすのに精一杯だった。
あんなことやこんなことをしたいんだけど、毎日決められた教科書の内容を進めていかないといけない。
油断していると、すぐに次の授業がやってくる。
その上、運動会準備、児童会顧問、会計処理・・・
本当に、心に余裕が持てなかった。
そんな怒涛の勢いで過ぎ去った1学期を終え、ようやく心に余裕が出来た僕は、東京まで出向き、君のステージを覗いてみることにした。
君には内緒で。
4年前の君の言葉を思い出す。
「会えなくなるけどさみしくなんかないよ。そのうちきっと、大きな声で、笑える日が来るから」
本当に、そのうちきっと・・・?
その1つの答えが、今日出るのかも知れない。
まだまだ、売れているとは言い難いだろう。
ネットやテレビで君の名前を探しても、残念ながら情報が乏しい。
それでも、小さな劇場出番であっても、きっと君は輝いている。
そう信じて、僕はネットで調べた劇場へと向かった。
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「今日は何人くらい?」
僕は、ステージの様子を見て帰ってきた相方に、お客さんの入り状況を聞いた。
「うーん、20人くらいかな。」
「まあ、そんなもんだよな。じゃあその20人、全員笑わせてやろうぜ!」
「おう!」
そう言って、グータッチ。
よく仲間から、お前たち仲良いよな~と、半分うらやましがられ、半分からかわれている。
なかなか芽が出ない毎日だが、こうして2人の心が切れていないうちは、僕らは大丈夫。そう、信じていた。
「どうも~!!」
と、いつも通りステージに立った。
そしてつかみのギャグの反応を見ようと会場を見渡すと・・・
懐かしい顔を見つけた。
それは、紛れもなく君だった。
それに少し驚いて、ボケのタイミングが少し狂ってしまった。
次のボケ→ツッコミのラリーで、慌てて立て直す。
その後からは、君のおかげかな?自分がいつもよりノッていることが分かった。
時たま君に目をやると、どんなタイミングでも笑っていてくれていた。
その笑顔が、僕らをさらに加速させた。
出番後、相方が僕に駆け寄った。
「おい!今日のお前、凄かったな。今までで一番の出来だったんじゃないか?」
「だよな!何だか、壁を一つ乗り越えた気がするよ!」
君の後押しで動き出して、君との再会で加速した僕の夢。高い山越えて、星になれたらいいな。
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やっぱり、君はすごい。本当にすごい。
あそこの客はせいぜい20人くらいで、僕のクラスの人数よりも少なかったけど、あれだけの、しかも見ず知らずの人の笑顔を作れるって、本当にすごいことだよ。
4月に子どもたちに伝えた言葉を思い出す。
Become a rainbow in someone’s life today.
「今日の誰かの人生における虹になりなさい。」
君は十分、沢山の人の人生の虹になっているよ。
だから、改めて僕も頑張ってみる。
君の夢も僕の夢も、もっともっと輝いて、大空を彩る虹になれたらいいな
~Fin.~