星になれたら~君と僕の物語~①
お笑い芸人になって、日本中の人たちの笑顔を作っていきたい・・・
中学生の頃から抱いていた、僕の夢だ。
中学卒業までは、恥ずかしくて誰にも言えなかった。
1人で秘かに、漫才やコントの台本を書いていた。
当時はどれも、好きな芸人のネタをアレンジしただけで、オリジナリティのあるものは1つもなかった。でも、「まずは真似から始めるべき」と、ある芸人さんの本に書いてあったのを信じて、自分なりの「芸人修業」を続けていた。
そして、僕は高校生になった。
お笑い好きの友達ができた。
何人かで好きな芸能人の話をしていた時に、同じ芸人のことが好きだと知ったのだった。
それからは、学校帰りにその芸人のネタについて語り合ったり、会話の中でその芸人の決め台詞を入れ込んで笑い合ったりと、本当に楽しかった。
文化祭では、2人で漫才をする機会をもらった。
学校の校則をテーマにしたコント漫才だった。
我ながら、だいぶ笑いを誘えたのではないかと思う。
そうか、自分が作り出したものでみんなが笑顔になるって、こんなに気持ちの良いことなんだ・・・
そんな経験を経ることで、中学生の頃からの「芸人になりたい」という夢は膨れ上がっていく一方だった。
そしてある日、僕はそっと、その友達に打ち明けた。
「実は、プロの芸人になりたいんだ・・・」
君は、「本気?」と驚いたあと、遠くを見つめながら「絶対応援するよ」とつぶやいた。
「僕の夢に付いてきてくれないか」という言葉がのどまで出かかったものの、言えなかった。
君には、教師になりたいっていう夢があるのを知っていたから。
君は君で、そんな夢に対してすごくアツい思いがあって、地元の大学の教育学部に進学するんだって聞いていたから。
高3の3月になった。
君は、無事にこの街の大学の教育学部に受かった。
そして僕は・・・友達や先生、家族みんなに、「お笑い芸人の養成所に入る」と伝えた。
みんな、「なれっこないよ」「お前には無理だよ」「やめておけよ」と、僕をバカにするような目で見てきた。
あの日から変わらず「応援するよ」と言い続けてくれたのは、君だけだった。
そして、養成所の試験に合格した僕は、この街から旅立つことにした。
東京へ向かう駅のホームに、君は1人で見送りに来てくれた。
「この街を出て行く事に決めたのは、・・・本当にそういうことなんだな」
「うん、いつか君と話した夢の続きが今も、捨て切れないから・・・」
あと数分で、東京行きの電車が来る。
「簡単な道ではないんだぞ」
「そうだな」
「本業で食べていける人なんて、本当にごくごく一握りなんだぞ」
「分かってる」
「ずうっとバイト暮らしかも知れないよ。中途半端に辞めた後、何のスキルもない中での就職活動は大変だよ。でも、・・・決めたんだよな。」
「うん。」
君の言葉は、周囲からの罵声とは違う。
別に、僕をバカにしようとしているわけでも、足を引っ張ろうとしているわけでもない。
これまで育んできた、僕の覚悟の確認作業をしてくれているだけだ。
確かに今まで、何度も耳をふさいでは、ごまかしてばかりいたよ。
周囲のあらゆる人に「無理だよ」と言われるたびに、固かったはずの意志が揺らいでしまっていた。
周りの言葉を否定し、いなし続けてきた僕だって、確固とした自信があるわけじゃない。
不安でいっぱいの気持ちに目をつむりながら、必死にごまかしてきたんだ。
君はそれを分かっているから、あえて厳しい言葉を投げてくれたんだよね。
だけど・・・いやだからこそ、君にちゃんと伝えたかった。
今度は、ちょっと違うんだ。昨日の僕とは・・・って。
「やっぱり、君以外の見送りはなかったか・・・。だからこうやって、こっそり出てゆくよ。だけど負け犬じゃないからね。」
「そうだな。お前なら、きっと成功するよ。今までバカにしてきた奴らを見返してやれ!」
そう、もうキャンセルもできないんだ。
君は伏し目がちに言った。
「さようなら。寂しくなるな」
僕は、少し無理して表情を明るくして、
「そんなことないよ。会えなくなるけどさみしくなんかないよ。まあ見ていてよ。そのうちきっと、大きな声で、笑える日が来るから」
それを聞いた君は、小さく何度も頷いた。
そして、電車に乗る直前。君は声を張り上げた。
「いつでも帰ってきていいんだぞ!」
そう言って君は、拳を突き出してきた。
「・・・ありがとう」
そう答えて僕は、君に応えてグータッチをした。
涙が止まらなかった。
電車が動き出した。
それと同時に動き出した僕の夢。高い山越えて、星になれたらいいな。