es ~Theme of es~ ~不確実な時代の捉えどころのない人間の心を描いた、魂の叫び~ 後編
どうも、口笛少年です。
今回は、『es ~Theme of es~』の歌詞深読みの後編です。
前編はこちら。
es ~Theme of es~ ~不確実な時代の捉えどころのない人間の心を描いた、魂の叫び~ 前編 - ミスチル桜井さんが好きすぎて・・・ (hatenablog.com)
では今回は2番から。
Ah 自分の弱さを まだ認められずに
恋にすがり 傷つけるたび思う
「愛とはつまり幻想なんだよ」と
言い切っちまった方が
ラクになれるかもなんてね
「恋にすがり、傷つける」という言葉が出てきます。
このesが収録されたアルバムは、『BOLERO』。
これはコンセプトアルバム『深海』の次に出されたアルバムで、人間のヘビーな部分をリアルに描いた『深海』の流れを受けた、負の感情が前面に出た曲が多いアルバムでもあります。
「恋なんて いわばエゴとエゴのシーソーゲーム」と歌い上げた桜井さん。
しかし、「シーソー」のようなぐらついた存在にすがり付くよりは、何かを割り切ってしまった方が、気楽なのかもしれません。
またここで見落としがちなのは、ここには「恋」と「愛」という、似て非なる言葉が両方出てきているということです。
別の記事でも述べましたが、桜井さんが「愛」を定義した曲は、何曲かあります。
例えば、『名もなき詩』。
愛はきっと奪うでも 与えるでもなくて
気が付けばそこにあるもの
また『NOT FOUND』では、こんな一文があります。
愛という 素敵な嘘で騙してほしい
また桜井さんはライブのMCで、「愛とは“想像力”のことなんじゃないかと思いました」と語っています。
共通していることは、愛とは捉えどころのない、不確実なものなのだということです。
甘えや嫉妬やズルさを
抱えながら誰もが生きてる
それでも人が好きだよ
そして あなたを愛してる
人は甘くて嫉妬深くてずるい生き物。
だからこそ、不確実なものでしかない「愛する」ということに依存して生きているんですね。
美しくもあり、哀しくもある事実だと思います。
Oh なんてヒューマン 裸になってさ
君と向き合ってたい Uh
栄冠も 成功も 地位も 名誉も
たいしてさ 意味ないじゃん
当時の桜井さんは、「栄光」「成功」「地位」「名誉」すべてを手に入れた存在でした。
そんな桜井さんが言う「意味ないじゃん」だからこそ説得力があるし、むしろ桜井さんにしか書けない歌詞であるとも思います。
他の人が書くと、嫉妬とか妬み、負け惜しみにも聞こえかねないですね。
身に纏った勲章は、実体のないもの。
どんなに栄光を手に入れても、自分は自分。本質は変わらない。
まさに「es」ですね。
「こんな存在になってしまった自分は、こうあるべきだ」というsuper-ego(超自我)は日に日に重荷になっていく。でも、僕を突き動かす根っこの部分である「es」は、何も変わっちゃいない。
だから、僕が身に纏ったものに目を奪われないで、僕の本質を見て欲しいんだ・・・
激しい曲調とあいまって、桜井さんのそんな悲痛なまでの叫びが伝わってきます。
全体的に落ち着いた印象が強いこの曲において、この部分だけが異彩を放っています。それは、ここの歌詞が桜井さんが一番訴えたいメッセージだったからではないでしょうか。
今ここにいる自分を
きっと誰もが信じてたいのさ
過ぎた日々に別れ告げて
君は歩き出す
「恋」も「栄冠」も「成功」も「地位」も「名誉」も、どこか実体を感じられないもの。
だからこそ、「今ここにいる自分」だけは、信じていたい。
ここの「君」は、桜井さん自身の、本能的な「es」にも、リスナーにも投影できますね。
何が起きても変じゃない
そんな時代さ覚悟はできてる
よろこびに触れたくて明日へ
僕を走らせてくれ
僕の中にある 「es」
不確実な世界、不安定な時代の中、アンバランスな現実のどこに落とし穴が潜んでいるか分かりません。
それでも、それを覚悟した上で、明日に向かっていきたい。
でも、明日に向かって走り出すには、どこか勇気が要ることで、尻込みすることがあるかも知れない。egoやsuper-egoが邪魔をすることもあるでしょう。
そんながんじがらめの自分を、何とか突き動かしてくれないかと、「es」に懇願している、そんな、人間の弱い部分を赤裸々に綴った、躍動感あふれる名文ではないかと思います。