ミスチル桜井さんが好きすぎて・・・

~目じゃないとこ耳じゃないどこかを使って見聞きをなければ見落としてしまうブログ~

Starting Over~己を変えたい人全てに向けた応援歌~ 前編

こんにちは、口笛少年です。

今回深読みするのは『Starting Over』。

映画『バケモノの子』の主題歌です。

Starting Overの意味は、「新たなる旅立ち」

ハングリー精神を持って、飽くなき挑戦を続けているMr.Children自身を表した題名であると思います。

題名だけでも、桜井さんがこの曲に強い想いを込めたことがうかがえます。

では、歌詞を見ていきましょう。

 

※このブログに書かれていることは、あくまで個人的な見解です。

桜井さんの本意をあぶり出そうというよりは、私の勝手な解釈を楽しんでいただくためのものです。

なので、「なるほど!ちなみに私はこう思ってます!」といった意見の交流はぜひしてみたいのですが、「桜井さんはそんなこと言ってないはず!」みたいなおっかない非難はこのブログの趣旨に反するので、コメントを承認しない可能性があります。ご了承ください。

――――――――――――――――――――――――――――

〇肥大したモンスターの頭を

隠し持った散弾銃で仕留める

今度こそ 躊躇などせずに

その引き金を引きたい

――――――――――――――――――――――――――――

肥大したモンスター=ビックバンドの成り上がった、Mr.childrenという存在。

散弾銃で仕留める=今まで積み重ねてきたものをぶち壊すくらいに、生まれ変わったバンドを目指す。

今まで、どこか心の中でブレーキをかけていたその思いを、今度こそ白日の下に晒していきたい。

そんな、とてつもなく強い覚悟を感じます。

 

実はこの頃、それまでずっとミスチルをプロデュースしてきた小林武史氏と距離を取り、初のセルフプロデュースを始めていました。

そんな背景も相まっての、この強気の歌詞なのかなとも思いますし、もう一歩深読みすると、「肥大したモンスター」とは小林武史とタッグを組んでいたミスチルのことで、そのタッグを解消したことを、「散弾銃で仕留める」と表現したのかも知れません。

また、不確かな情報ではありますが、当時桜井さんと小林さんとは不仲説が唱えられていました。もしそれが本当で、歌詞にも反映されていたのだとしたら、かなり攻撃的な言いようですね。

 

この「肥大したモンスター」は、人生の色んな場面に投影できます。

例えば、夢を追っていく中で、自分の心の中に膨れ上がった理想(=肥大したモンスター)。でも、夢破れて諦める(散弾銃で仕留める)ことに、どうしても躊躇してしまう。そんな現実からは目を背けたい。何度も何度もやむにやまれなかったその諦め=引き金を、今度こそ引かないと・・・そんな、夢追い人が厳しい現実に屈した瞬間とも読めます。

 

また、映画『バケモノの子』とリンクさせるとどうでしょう。

この映画の前半部分では、主人公の師匠であるバケモノの独りよがりが、弟子に取った主人公に出会って少しずつ剝がれている様が描かれています。

独りよがりの(肥大した)バケモノ(モンスター)。

それを心変わりさせていく(散弾銃で仕留める)主人公の少年。

 

そうやって文章を当てはめていくと、ミスチル自身のことに加えて、映画の主題歌としてもきっちり仕事をしていると言えます。

 

――――――――――――――――――――――――――――

〇あいつの正体は虚栄心?

失敗を恐れる恐怖心?

持ち上げられ 浮き足立って

膨れ上がった自尊心?

――――――――――――――――――――――――――――

「あいつ」とは、肥大化したモンスターのこと。

今の地位に上り詰めたMr.Childrenというバンド。

では、ミスチルミスチルたらしめているのは何なのか。

それは、

虚栄心…自分を実質以上に見せようと、見栄を張ろうとする心

自尊心…自身を優れた存在だと認める心

のこと。

似ているようでいて、だいぶ違った意味になります。

 

バンドを立ち上げた頃、自分たちを奮起させるべく無理やりひねり出した“虚栄心”があった。

でも実際は、本当にこのバンドでやっていけるのか、不安でしょうがない“恐怖心”もあった。

 

やがて、バンドが売れていくたびに、周りは自分を媚びたり持ち上げたりしていく。

そんな群がって来る周囲の大人たちによって、“自尊心”らしきものも育ってきた。

でも、実際は必要以上に持ち上げられている気がして、この自尊心も不確かなものに思えてきて・・・本当に、ここまで自分は優れた存在と言えるのだろうか?

実はこの「自尊心」は、膨れ上がった風船のように、外見ばかり大きくて中身のないものなのではないのか?

その肥大したモンスターを、いつか散弾銃で仕留める必要があるのではないか・・・?

 

桜井さんの楽曲には、コンセプトアルバム『深海』に代表されるような、人気者ゆえの苦悩が描かれているものが多くあります。

この曲は、収録されたアルバム『REFLECTION』がリリースされた頃としては珍しく、そんな苦悩が色濃く出た作品だと思います。

――――――――――――――――――――――――――――

〇さぁ 乱れた呼吸を整え

指先に意識を集めていく

――――――――――――――――――――――――――――

 自分は肥大したモンスターのような自己を省みて動揺し、呼吸が乱れた自分を落ち着かせ、指先(ギターの弦)に意識を集中させて演奏していこうとしている・・・

ここから、心の奥にある苦悩に蓋をして、表舞台に駆け上がっていきます。

――――――――――――――――――――――――――――

〇僕だけが行ける世界で銃声が轟く

眩い 儚い 閃光が駆けていった

「何かが終わり また何かが始まるんだ」

そう きっとその光は僕にそう叫んでる

――――――――――――――――――――――――――――

桜井さんが描く、詩やメロディー。

いや、桜井さんにしか描けない、詩やメロディー。

それが、「僕だけが行ける世界」。

そんな孤独な世界で、銃声が轟く(歌詞やメロディーが浮かんでいく)。

 

そしてある時、頭の中を駆けていった閃光は「眩い」、そして「儚い」ものでした。

その閃光が、きっと今後のMr.Childrenが辿る道を指し示していたのではないでしょうか。

こんなことやあんなことを表現して、発信して、リスナーに届けていこう。

・・・そんな考えを、その閃光が運んできてくれたのだと思います。

その閃光が、「今までのミスチルという存在をいったんリセット(何かが終わり)して、新しいミスチルをもう一度構築していこう(何かが始まる)よ!」と叫んでいる。

きっとその想いは、桜井さんの頭の中のどこかに眠っていたものだったのではないかと思います。それを、その閃光が呼び起こしてくれたのではないでしょうか。

 

またこのサビ頭は、元々「僕しか知らない世界」という歌詞でした。

しかし、レコーディングを重ねていく中で、前向きな歌詞にしたいということで、「僕しか知らない」という否定語ではなく、「僕だけが行ける」という肯定表現から始めようと思い立ったそうです。

そんな絞り出した表現も、その「閃光」が呼び覚ましたものなのかも知れませんね。

 

星になれたら~君と僕の物語~ ➄

夏休みになった。

初任者にとっての学校現場は、とにかく過酷で、毎日をやり過ごすのに精一杯だった。

あんなことやこんなことをしたいんだけど、毎日決められた教科書の内容を進めていかないといけない。

油断していると、すぐに次の授業がやってくる。

その上、運動会準備、児童会顧問、会計処理・・・

本当に、心に余裕が持てなかった。

 

そんな怒涛の勢いで過ぎ去った1学期を終え、ようやく心に余裕が出来た僕は、東京まで出向き、君のステージを覗いてみることにした。

君には内緒で。

 

4年前の君の言葉を思い出す。

 「会えなくなるけどさみしくなんかないよ。そのうちきっと、大きな声で、笑える日が来るから

 

本当に、そのうちきっと・・・?

その1つの答えが、今日出るのかも知れない。

まだまだ、売れているとは言い難いだろう。

ネットやテレビで君の名前を探しても、残念ながら情報が乏しい。

それでも、小さな劇場出番であっても、きっと君は輝いている。

そう信じて、僕はネットで調べた劇場へと向かった。

――――――――――――――――――――――――――――

「今日は何人くらい?」

僕は、ステージの様子を見て帰ってきた相方に、お客さんの入り状況を聞いた。

「うーん、20人くらいかな。」

「まあ、そんなもんだよな。じゃあその20人、全員笑わせてやろうぜ!」

「おう!」

そう言って、グータッチ。

よく仲間から、お前たち仲良いよな~と、半分うらやましがられ、半分からかわれている。

なかなか芽が出ない毎日だが、こうして2人の心が切れていないうちは、僕らは大丈夫。そう、信じていた。

 

「どうも~!!」

と、いつも通りステージに立った。

そしてつかみのギャグの反応を見ようと会場を見渡すと・・・

懐かしい顔を見つけた。

それは、紛れもなく君だった。

それに少し驚いて、ボケのタイミングが少し狂ってしまった。

次のボケ→ツッコミのラリーで、慌てて立て直す。

 

その後からは、君のおかげかな?自分がいつもよりノッていることが分かった。

時たま君に目をやると、どんなタイミングでも笑っていてくれていた。

その笑顔が、僕らをさらに加速させた。

 

出番後、相方が僕に駆け寄った。

「おい!今日のお前、凄かったな。今までで一番の出来だったんじゃないか?」

「だよな!何だか、壁を一つ乗り越えた気がするよ!」

君の後押しで動き出して、君との再会で加速した僕の夢高い山越えて、星になれたらいいな

――――――――――――――――――――――――――――

やっぱり、君はすごい。本当にすごい。

あそこの客はせいぜい20人くらいで、僕のクラスの人数よりも少なかったけど、あれだけの、しかも見ず知らずの人の笑顔を作れるって、本当にすごいことだよ。

 

4月に子どもたちに伝えた言葉を思い出す。

Become a rainbow in someone’s life today.

「今日の誰かの人生における虹になりなさい。」

 

君は十分、沢山の人の人生の虹になっているよ。

だから、改めて僕も頑張ってみる。

 

君の夢も僕の夢も、もっともっと輝いて、大空を彩る虹になれたらいいな

 

~Fin.~

 

 

星になれたら~君と僕の物語~ ④

 

夢見ていた教員生活が始まった。

 

教師1年目の僕が担任したのは、小学5年生のクラスだった。

5年生の国語の教科書の最初の題材は、「虹」をテーマにした詩だった。

年度初めで、どんな学級にしたいかという話も兼ねて、大好きな言葉を子どもたちに伝えた。

外国の作家さんの言葉だ。

 

Become a rainbow in someone’s life today.

翻訳すると、「今日の誰かの人生における虹になりなさい。」

 

皆さんが友達にやっていること、言葉がけや一挙手一投足が、友達の生活を輝かせることも出来るし、暗くすることもできてしまう。

きっと楽しいことばかりではない。

だから、どしゃぶりのような暗い出来事があった時こそ、雨上がりの虹のように晴れやかな存在でいてほしい。

そして、教室にいっぱい虹がかかるようなクラスにしていきたい。

それに、皆さんが今やっている勉強はきっと、将来だれかの心に虹をかける材料になるはずなんだ。

だからこそ、僕はその材料を沢山伝えていきたいし、皆さんはそれを頑張って受け取っていってほしい。

 

・・・これは、自分に言い聞かせた言葉でもあった。

今日の授業、子どもたちへの関わりが、どんな形でもいい。たった1人でもいいから、その子の人生を輝かせる虹になったらいい。

 

子どもたちのキラキラした瞳からは、僕の言葉を子どもたちなりに懸命に受け止めてくれているのがよく伝わってきた。

この子たちの輝いている瞳を絶やさないように、1年間教えていかないと。

そう決心した。

 

ずっとくすぶっていた僕の夢が、ようやく動き出した

そんな僕の夢が、深い谷越えて、子どもたちを照らす虹になれたらいいな

自分で授業をしながら、僕自身がそう思った。

 

星になれたら~君と僕の物語~ ③

どこかで呼んでる声がする気がして、振り向いてみる。

そこには、見慣れたバイト帰りの風景が広がっているだけだった。

4月初めの早朝。

君から教員採用試験合格の知らせを受けてから、半年がたった。

きっと君だったら、子どもたちに慕われる、いい先生になるんだろうなと思う。

 

それに比べて、僕はどうだ。

毎日出させてもらっている事務所のライブでは、お客さんのアンケート評価が思うように上がっていかない。

客のせいにするのは簡単だったけど、自分の実力が圧倒的に足りないことは分かっていた。

何度もオーディションを受けて、やっと出演できた深夜のネタ番組

でも、スタッフにはまらなかったのだろう。2度目の出演は叶わなかった。

一念奮起して始めた、ネタ配信のYouTubeチャンネル。

何か月もかかってようやく収益化の基準は達成できたものの、収益は月数千円程度。そんなもの、衣装代やオーディションへ行くための交通費で消えてしまう。

 

初めてライブの舞台に立った時には、自分たちが誰よりも面白い漫才ができるという、根拠のない自信があった。

でも、その自信は1年も経たずに崩れ去った。

自分には、才能がないのかもしれない・・・

いつしか、そんな弱気がつい口からこぼれてしまうことが増えた。

 

だけど帰りたくない

 

地元で僕をあざ笑った奴ら。

それでも、僕を応援してくれた君。

そんな君に、顔向けできるはずがない。

だから僕は、バイトを掛け持ちして生計を立てながら、週3回のお笑いライブの舞台に立ち続けた。

バイトの仲間は、僕がお笑い芸人をしているのを知っている。

みんな口々に言う。

「お前が売れるわけがないだろ」

「もう辞めちまえよ。」

「諦めちゃった方がラクだぞ」

中には、いつまでも夢を追いかけ続ける僕を心配して、善意で忠告してくれている人もいることは分かっていた。

でも多くは、地元の奴らと同じ。人生足踏みしている僕を見て、あざ笑っていたのだった。

 

でも、笑われるのにも慣れた

周りが何を言っているのかは関係ない。

僕は、僕の道を行く。

ただそれだけのことだ。

 

幸い、相方も同じ気持ちでいてくれていた。

こんな僕が書くネタを、一生懸命覚えてくれた。

「オレは面白いと思う」「きっといつか、世間にも伝わるさ」と、励まし続けてくれた。

そしてある日、翌日のライブに向けてネタ合わせをしようと集まった僕の家で、こんなことを言ってくれた。

長く助走をとった方が、より遠くに飛べるって聞いたよ。その時が来るまで、全速力で駆け抜けていこうよ。」

その言葉を聞いて、僕の頬がふわっと緩んだ。

「そうだな。ブレイクの糸口を掴むまで、死ぬ気でやっていこうか。そのうちきっと 大きな声で 笑える日が来るはずだよな。」

すると、相方の表情も明るくなった。

「そうだよ。分かってんじゃねえかよ!」

そう言って、僕の肩をバンッと叩いてきた。

「おっ、おう・・・。それでさ、早速新ネタ持ってきたんだけど・・・」

 

その夜、僕らのネタ合わせは明け方まで続いた。

 

 

星になれたら~君と僕の物語~ ②

やっぱり、君はすごいや。

4年前、お笑い芸人を目指して東京へ旅立っていった、かつての大親友を思い出して思う。

僕もこの4年間、自分なりに頑張ってきたつもりだ。

でも、公立学校の教師という安定した仕事を目指してきた僕と違い、君は完全実力主義の不安定な仕事に、躊躇なく飛びこんだんだ。

本当にすごいと思う。

 

君が、養成所で出会った仲間と漫才コンビを組んだこと。

そして養成所を卒業して、正式に芸能事務所に入ったこと。

お笑いライブに少しずつ出られるようになってきたこと。

深夜のネタ番組で、数分だけネタをやらせてもらえたこと。

ネタ配信のYouTubeチャンネルが、初めて収益化できたこと。

 

そうやって、君は少しずつ、でも着実に、夢への階段を登っていった。

そのたびに、君は嬉しそうに電話で報告してくれた。

何かにつまずいた時はいつも、そんな君の頑張りを思い浮かべて、心を奮起させてきた。

 

半年前に教員採用試験に受かり、今日、僕は人生で初めて教壇に立つ。

教育実習の時とは違う。

プロとして、子どもたちの前に立つのだ。

 

教室から見える空に手をかざしてみる。

雲一つない大空は、人生の節目を迎える僕を、祝福してくれているような気がした。

教師として、今の自分に何ができるのか、まだよく分からない。

でもとにかく、自分の全てを出し切っていこう。

僕が教えられる全てを、子どもたちにぶつけてみよう。

そして、子どもたちと一緒に成長していければいい。

 

その時。

ふわっと優しい風が吹いた。

その風に乗って、遠くから登校中の子どもたちのはしゃぎ声が聞こえた。

いよいよだ。

僕は、4年前に君とグータッチして別れた時と同じように、空に向けて拳を突き出した。

この風はきっとどこかで君と繋がっているから。

 

星になれたら~君と僕の物語~①

 お笑い芸人になって、日本中の人たちの笑顔を作っていきたい・・・

 中学生の頃から抱いていた、僕の夢だ。

 中学卒業までは、恥ずかしくて誰にも言えなかった。

 1人で秘かに、漫才やコントの台本を書いていた。

 当時はどれも、好きな芸人のネタをアレンジしただけで、オリジナリティのあるものは1つもなかった。でも、「まずは真似から始めるべき」と、ある芸人さんの本に書いてあったのを信じて、自分なりの「芸人修業」を続けていた。

 そして、僕は高校生になった。

 お笑い好きの友達ができた。

 何人かで好きな芸能人の話をしていた時に、同じ芸人のことが好きだと知ったのだった。

 それからは、学校帰りにその芸人のネタについて語り合ったり、会話の中でその芸人の決め台詞を入れ込んで笑い合ったりと、本当に楽しかった。

 文化祭では、2人で漫才をする機会をもらった。

 学校の校則をテーマにしたコント漫才だった。

 我ながら、だいぶ笑いを誘えたのではないかと思う。

 そうか、自分が作り出したものでみんなが笑顔になるって、こんなに気持ちの良いことなんだ・・・

 そんな経験を経ることで、中学生の頃からの「芸人になりたい」という夢は膨れ上がっていく一方だった。

 

 そしてある日、僕はそっと、その友達に打ち明けた。

「実は、プロの芸人になりたいんだ・・・」

 君は、「本気?」と驚いたあと、遠くを見つめながら「絶対応援するよ」とつぶやいた。

「僕の夢に付いてきてくれないか」という言葉がのどまで出かかったものの、言えなかった。

 君には、教師になりたいっていう夢があるのを知っていたから。

 君は君で、そんな夢に対してすごくアツい思いがあって、地元の大学の教育学部に進学するんだって聞いていたから。

 高3の3月になった。

 君は、無事にこの街の大学の教育学部に受かった。

 

 そして僕は・・・友達や先生、家族みんなに、「お笑い芸人の養成所に入る」と伝えた。

 みんな、「なれっこないよ」「お前には無理だよ」「やめておけよ」と、僕をバカにするような目で見てきた。

 あの日から変わらず「応援するよ」と言い続けてくれたのは、君だけだった。

 そして、養成所の試験に合格した僕は、この街から旅立つことにした。

 東京へ向かう駅のホームに、君は1人で見送りに来てくれた。

この街を出て行く事に決めたのは、・・・本当にそういうことなんだな」

「うん、いつか君と話した夢の続きが今も、捨て切れないから・・・」

 あと数分で、東京行きの電車が来る。

「簡単な道ではないんだぞ」

「そうだな」

「本業で食べていける人なんて、本当にごくごく一握りなんだぞ」

「分かってる」

「ずうっとバイト暮らしかも知れないよ。中途半端に辞めた後、何のスキルもない中での就職活動は大変だよ。でも、・・・決めたんだよな。」

「うん。」

 君の言葉は、周囲からの罵声とは違う。

 別に、僕をバカにしようとしているわけでも、足を引っ張ろうとしているわけでもない。

 これまで育んできた、僕の覚悟の確認作業をしてくれているだけだ。

 確かに今まで、何度も耳をふさいでは、ごまかしてばかりいたよ

 周囲のあらゆる人に「無理だよ」と言われるたびに、固かったはずの意志が揺らいでしまっていた。

 周りの言葉を否定し、いなし続けてきた僕だって、確固とした自信があるわけじゃない。

 不安でいっぱいの気持ちに目をつむりながら、必死にごまかしてきたんだ。

 君はそれを分かっているから、あえて厳しい言葉を投げてくれたんだよね。

 だけど・・・いやだからこそ、君にちゃんと伝えたかった。

 今度は、ちょっと違うんだ。昨日の僕とは・・・って。

「やっぱり、君以外の見送りはなかったか・・・。だからこうやって、こっそり出てゆくよ。だけど負け犬じゃないからね。」

「そうだな。お前なら、きっと成功するよ。今までバカにしてきた奴らを見返してやれ!」

そう、もうキャンセルもできないんだ。

 

 君は伏し目がちに言った。

さようなら。寂しくなるな」 

 僕は、少し無理して表情を明るくして、

「そんなことないよ。会えなくなるけどさみしくなんかないよ。まあ見ていてよ。そのうちきっと、大きな声で、笑える日が来るから」

 それを聞いた君は、小さく何度も頷いた。

 そして、電車に乗る直前。君は声を張り上げた。

「いつでも帰ってきていいんだぞ!」          

 そう言って君は、拳を突き出してきた。

「・・・ありがとう」

 そう答えて僕は、君に応えてグータッチをした。

 涙が止まらなかった。

 電車が動き出した。

 それと同時に動き出した僕の夢高い山越えて、星になれたらいいな

 

 

Sign ~夢を追う2人を描いた、美くも儚い青春ソング~ 後編

こんにちは。

口笛少年です。

今回も、『Sign』の深読みをしていきます。

 

前編はこちら。

Sign ~夢を追う2人を描いた、美くも儚い青春ソング~ 前編 - ミスチル桜井さんの脳内を勝手に深読みしてみた (hatenablog.com)

 

※このブログに書かれていることは、あくまで個人的な見解です。

桜井さんの本意をあぶり出そうというよりは、私の勝手な解釈を楽しんでいただくためのものです。

なので、「なるほど!ちなみに私はこう思ってます!」といった意見の交流はぜひしてみたいのですが、「桜井さんはそんなこと言ってないはず!」みたいなおっかない非難はこのブログの趣旨に反するので、コメントを承認しない可能性があります。ご了承ください。

 

ということで、2番の歌詞から読んでいきましょう。

――――――――――――――――――――――――――――

〇たまに無頓着な言葉で汚し合って

互いの未熟さに嫌気がさす

でもいつかは裸になり甘い体温に触れて

優しさを見せつけ合う

――――――――――――――――――――――――――――

順調に愛を育んできた1番と違い、2番では2人の音符(おもい)の波長が合いません。

桜井さんの楽曲には、このように明と暗が対比される構成の曲が多いです。

例えば、まるで1本の恋愛映画のような、1組のカップルの出会いと別れが写実的に描かれたアルバム曲『ありふれたLove Story~男女問題はいつも面倒だ~』では、

1番…出会い

2番…離別

大サビ…旅立ち

という分かりやすい構成となっています。

「明」→「暗」とはなりますが、最後に「旅立ち」のような「救い」が入ることで、心地よく聞き終わることができます。

――――――――――――――――――――――――――――

〇似てるけどどこか違う だけど同じ匂い

身体でも心でもなく愛している

――――――――――――――――――――――――――――

  「無頓着な言葉」で心と心をぶつけ合って、その帳尻を合わせるように、身体を求めあった2人。

 そうやって、「愛」の形を追究していった時の心の迷い、思考の過程が、ここに繊細に描かれています。

 似ているけど、違って、でも同じ。

 文章にしてしまうと、全く整合性がとれていません。

 でも、「愛」ってそういうものなんだなと。

 論理的には説明が出来ない。

それが「愛」なんだと。

 「身体」「心」と簡単には表現しきれない、掴みどころがないものなのだと。

 

ちなみに『しるし』では、

左脳に書いた手紙

くしゃくしゃに丸めて捨てる

という歌詞がありますが、同じような意味なのでしょう。

 

せっかくなので、この桜井さんの歌詞における「愛」について、もう少し深堀りしてみましょう。

 

桜井さんの「愛」の定義の中で最も有名なのは、『名もなき詩』のこの歌詞でしょう。

愛はきっと奪うでも 与えるでもなくて

気が付けばそこにあるもの

 

また『NOT FOUND』では、こんな一文があります。

愛という 素敵な嘘で騙してほしい

 

さらには『【es】〜Theme of es〜』ではこう書かれています。

 「愛とはつまり幻想なんだよ」と

 言い切っちまった方がラクになれるかもなんてね

 

 一貫しているのは、愛とは実態のない、とらえどころのないものなのだということです。

 そして、数多くの恋愛ソングを書いてきて、「愛」という実態のないものについて誰よりも多く向き合ってきた桜井さんにとっては、そんなものをどう表現するかを難しく考えるより、「愛=幻想」なのだと言い切った方がラクになれるのかもしれないのですね。

さて、Signに戻りましょう。

――――――――――――――――――――――――――――

〇僅かだって明かりが心に灯るなら

大切にしなきゃ と僕らは誓った

――――――――――――――――――――――――――――

僅かな明かり・・・これは何を指すのか。

ドラマ「オレンジデイズ」では、ヒロインの沙絵がバイオリニストになる夢を諦めきれず、周りの友達の助けを借りながら、夢に向かって奮闘します。

しかし、聴覚障害がある沙絵にとって、それは茨の道であり、何度も挫折を繰り返しながら夢にしがみついていきます。

そういった、

実現困難な夢=僅かな明かり

ではないかと、ドラマの内容から推察できます。

 

またこの部分は、恋愛の場面以外にも投影できる要素が多いですよね。

諦めかけた夢でも、少しでも情熱が心に灯る限り、可能性が残っている限り、追い続けていこうよ。

そんな、かつての桜井さん自身のように、夢に向かって奮闘しているリスナーへの、応援歌でもあるのだと思います。

――――――――――――――――――――――――――――

〇めぐり逢った すべてのものから送られるサイン

もう 何ひとつ見逃さない 

そうやって暮らしてゆこう

――――――――――――――――――――――――――――

今までは、「君」のサインを「ボク」が受け取る、という構図でした。

しかしここで、「ボク」と「君」は一緒の視点で描かれています。

「僅かな明かり」かもしれない夢や目標に向かって、同じ方向を向いて歩んでいることが分かります。

 

1番で描かれた、ありふれた時間が愛しく思えたあの頃。

でも、そこに安住することなく、「僅かな明かり」を追っていきたい。

それも、君と一緒に・・・

 

そのために、僅かな希望を無駄にせず、奇跡を信じて生きていこう。

そうやって、一緒に夢を追っていこう。

――――――――――――――――――――――――――――

〇緑道の木漏れ日が君に当たって揺れる

時間の美しさと残酷さを知る

――――――――――――――――――――――――――――

緑道を「君」と一緒に歩いています。

ここで、時間の「美しさ」と「残酷さ」という相反する言葉が出てきます。

ここでの「美しさ」とは何でしょうか?

それは、刹那的なこの一瞬を感じること。

夢を追う途中の、キラキラした自分たち。

しかし、その日々とは、いつかは別れの瞬間がやって来る。

その夢が破れても叶ったとしても、夢を追う“途中”のキラキラした日々は必ずついえていくのです。

「美しさ」と同時に「残酷さ」も知ったということは、その「いつか」が、すぐそこにやってくると感じ取っていることを示唆していると思われます。

――――――――――――――――――――――――――――

〇残された時間が僕らにはあるから

大切にしなきゃと 小さく笑った

君が見せる仕草 僕を強くさせるサイン

――――――――――――――――――――――――――――

その「いつか」がもうすぐやってくるのかも知れない。

だからこそ、この一瞬を、残されたわずかな時間を、大切にしないといけない。

“時間の美しさ”を知り、“残酷さ”を悟ったからこそ、強く湧き出てきた想いなんですね。

そして、「君」という存在が、今まで「僕」を強くさせてくれたんですね。

 

この曲で「サイン」という歌詞は3回出てきます。

一番では、「僕に向けられているサイン」

二番のサビでは、「すべてのものから送られるサイン」

そして大サビでは、「僕を強くさせるサイン」

 

「向けられている」だけだったサインは、時を追うごとに僕を「強く」してくれた。

その過程には、「君」と「僕」が共に感じた「サイン」があった。

そんな日々を通して、君から向けられた「サイン」が僕の中で大きな意味を持つようになった。僕を強くさせてくれるようになった。

それだけ、僕にとって「君」は大きくて大切な存在になった。

――――――――――――――――――――――――――――

〇もう 何ひとつ見落とさない

そうやって暮らしてゆこう

そんなことを考えている

――――――――――――――――――――――――――――

時に美しく、残酷で、儚い存在である「時間」という存在。

そんな刹那的な「今」が発している全ての「サイン」を、「君」と一緒に最大限受け止めていきたい。感じ取っていきたい。

オレンジデイズ」では、主人公とヒロインとのすれ違いが続きます。

だからこそ、僅かな「サイン」を懸命に届けようと、受け取ろうともがいているのだと思います。

 

そんな、夢を追いながら共に進んでいく恋人同士に加えて、孤独と闘いながら夢を追う人へのメッセージソングだと、私は考えています。